高齢者が物忘れしたら認知症なのか?――目立つ医師の「早まった診断(誤診)」 上田諭 | 高齢者精神科専門医

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★考察★ 

私のような医療のド素人でもわかることが責任の重い医師の中でもわからない人もいる。
医師といえでも当然だが「学ばなければ判断できない」
認知症の診断は難しいと感じる。

安易に特定の医師だけの判断に寄りかからず気になる時はセカンドオピニオンも有効に活用することも大切。

私はあくまでも自己流の感だよりなので自分のことを自覚しているからいい

★ここまで考察★

高齢者が物忘れや混乱した言動をしたら、すぐ「認知症ではないか」と考える間違った傾向が、身体科か精神科かの関係なく、医師の間で近年目立っている。一番に考えるべきは、身体的原因であり服用薬剤の影響である。治る可能性が非常に高いからだ。それらが除外できて初めて認知症を疑う。根治療法のない認知症は「最後の診断」にならないといけない。ところが、早まった誤診が多い。言動の混乱した高齢者をみて「認知症なのでは」とまず思うことなど、素人だってできる。プロのすることではない。社会やメディアで盛んな「早期発見」啓発の悪しき弊害ではないだろうか。

身体的原因と薬剤の影響
(例1)70歳代の男性は1年前からだるさが持続し1か月前から食欲も低下。ある日、起きられなくなって、救急車で内科病院に搬入され点滴治療を受けた。回復傾向となったが、言われたことをすぐ忘れる、日付を間違える、ということがあり、「認知症だから早く専門病院に行くように」と指示され、私の高齢者専門外来を受診した。

 認知症が体のだるさで発症することはない。初期に食欲が落ちることもない。1年で、起き上がれなくなることなどあり得ない。これらの原因は、身体的な病以外には考えられない。なぜそれが認知症となるのか。記憶障害と見当識障害を認めたからというなら、偏見も甚だしい。

血液検査で甲状腺機能を調べたところ、甲状腺ホルモンの値が顕著に低下していて(甲状腺機能低下症)、すべての症状の原因はここにあると思われた。大学病院の内分泌科に紹介し、男性はホルモン補充療法で改善した。

(例2)うつ病で心療内科にかかっていた70歳代の女性が、1か月ほどで急に会話がおかしくなった。トイレの場所もわからなくなり、家のあちこちで放尿した。主治医は「認知症になったから施設へ」と言い、高齢者専門病院を紹介した。

受診時、認知症スクリーニング検査である改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は3点(30点満点)と最重度だったが、高齢者の認知機能を下げる危険のある抗不安薬(ジアゼパム)や抗パーキンソン薬(ビペリデンなど)が処方されていた。入院でそれらの薬剤を中止したところ、症状は消失した。聡明で上品な女性であった。HDS-Rは満点に回復していた。

 認知症などではなく、医師は自分が処方した不適切な薬剤によって認知機能が大きく低下していたのを誤診していたのだ。そもそも1か月で重度になる認知症などあり得ない。認知症は何年もかけてゆっくり進行するものだ。その基本的事項を知ろうとしない医師が多い。

 

まず「ニセの認知症」除外
 身体的問題や薬剤だけでなく、精神科疾患で回復可能なうつ病を誤診している例もある。

(例3)80代の女性は、親しい友人が亡くなり外出しなくなった頃から活気がなくなり、物忘れが見られるようになった。かかりつけ医でHDS-Rをすると13点で、頭部CTで軽度萎縮があった。「アルツハイマー型認知症」と診断され、抗認知症薬が開始となり、さらに抗認知症薬1剤が追加された。1年近くたって不眠が目立つようになったため、家族が心配し、私の高齢者専門病院を受診させた。

活気なく表情も乏しく、それだけでアルツハイマー型認知症ではないと思われた。認知症になると元気がなくなるというのは大きな誤解である。周囲が認知症を否定的に見て指摘や叱責を再三するようなことさえなければ、アルツハイマー型認知症の人は基本的に元気なのである。

抗うつ薬を少量処方したところ、1か月で活気が戻り、HDS-Rは28点になった。認知症ならこのように回復することはあり得ない。2つの抗認知症薬は中止した。女性は親友の死を誘因に発症したうつ病で、そのために認知機能が低下していただけ(「仮性認知症」と呼ばれる)だったのである。

この3例は、以前からいわば「ニセの認知症」である「治る認知症状態」として、診断前に医師が第一に疑い鑑別すべき状態として知られている。かりにも認知症を診ようという医師が知らないはずはないと信じたい。社会やメディアの「早期発見」の掛け声は、医師が最低限行うべき鑑別の心得まで曇らせているのではないだろうか。
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