認知症リスク高める「難聴」 中等度なら早めに補聴器を

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七十五歳以上の約半数が悩んでいるとされる加齢が原因の難聴。近年、認知症のリスクを高めることが分かり、「聞こえ」の重要性が注目されている。根本的な治療法はないが、補聴器を使えば生活の質は上がる。「年のせい」で済まさず、適切なタイミングで使い始めることが大切だ。六月六日は「補聴器の日」。

国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の耳鼻いんこう科が開く補聴器外来。「ア」「キ」「シ」「タ」…。CDから流れる言葉を補聴器を着けた七十代の男性が一つずつ復唱していた。「問題なく聞こえていますね」と、結果を見た医師で加齢性難聴が専門の杉浦彩子さん(45)はにっこり。

男性は補聴器を購入してから初めての来院だ。「多少うるさく感じる」と話すと、「耳から入る音の情報や刺激が少ない状態に脳が慣れてしまったため」と杉浦さん。「一カ月から半年で違和感はなくなる」

補聴器は医療機器だが保険は適用されず、十万円しないものから五十万円以上するものまでいろいろ。聴力や使う環境などによって種類はさまざまだが、杉浦さんは「家庭用なら十万円台で十分。重要なのは調整」と言う。

音を脳に伝えるのは内耳という部分=図。「蝸牛」の中にある有毛細胞が音を感知している。加齢による難聴は、有毛細胞に生えている聴毛が抜けるなど細胞が傷むことで進行する。

聴力の低下は三十代から少しずつ始まる。最初は高音域が聞き取りにくくなり、次第に低音域に広がる。軽度難聴=表=の人の割合は、五十代後半では一割前後。六十代は三割、八十代では八割に上る。

認知症との関係が注目されたのは、二〇一一年、米国で約六百人に対して行われた研究。難聴のない人に比べ、認知症発症の割合は軽度難聴で二倍、中等度難聴では三倍だった。一昨年の国際アルツハイマー病会議では「難聴は認知症の最大の危険因子」とされた。音の刺激が減って脳の働きが弱まることが、理由の一つ。聞き間違いが増えるなどすることで、人との交わりを避け、孤立していくといった影響も考えられる。

世界保健機関(WHO)が、補聴器を使い始める時機として推奨するのは中等度難聴。だが、長寿研センターが一〇~一二年、地元の二千三百三十人を対象に行った調査では、中等度難聴で補聴器を使う人の割合は27%にとどまっている。

理由として日本補聴器工業会が挙げるのは「両耳とも高度難聴」など一定の条件を満たさないと購入への公的な補助がないこと。「使うことを恥ずかしいと思わせる社会的な偏見もある」と成沢良幸理事長は分析する。

聴力の衰えを感じたら、早めに耳鼻咽喉科を受診することが大事。日本耳鼻咽喉科学会はインターネット上で、学会が認定した補聴器相談医を公開している。補聴器を買うなら、専門知識を持つ「認定補聴器技能者」がいる店がお勧めだ。

学会は昨年、難聴の早期発見の重要性を知ってもらうためのサイトを設けた。早めに手当てをし、快適な「聞こえ」を長く維持したい。

(小中寿美)

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